女の指は白くて長かった。その手を取ろうものなら、ポキンと折れてしまいそうに細く、
その薄い皮膚の下に張り巡らされた無数の血管には、脈々と流れる赤が在った。
「きれいな色でしょう」
女の爪先は、鮮やかな青をしていた。はみ出ることなく均等に塗装された爪は、よく
手入れされておりツヤツヤとしていた。
だが、女の指す色は青ではない。
女の青が指さす、その先。
―――黒。
女の顔に引かれた紅が、きれいな弧を描いた。
「きれいな色、でしょう」
女は繰り返した。その声色は、うっとりとした潤いを含んでいた。
青が黒の表面をつぅと撫でる。黒の上を滑る白は、とてもよく映えた。
ゴツゴツとした黒の感触に、周囲を緑色で施された女の目は細められる。
カラリと音が割れ、女の左手に収まったグラスの中で氷が身じろぎをした。
グラスの中で形を成した半透明の液体は、鮮やかな橙色をしている。
「ねぇ、」
女が視線を上げた。
「ゲームをしましょう」
こちらを見つめる女の視線が、ピタリと止まった。
深い藍に秘めた思考は、深い海の底に沈められて浮上してこない。
「あなたと私、どちらの運が強いのか」
藍と紅が、ゆっくりと弓なりに曲がる。
黒をこちらに渡すと、女は「さぁ」と先を促した。
カチリ
軽くて小さな音がした。
「残念」
女は嬉しそうに、だが悲しそうに微笑んだ。
何に対しての「残念」なのかはわからない。
「私の番、ね」
そうして女は黒を白の中に収めた。
「今日は楽しかったわ。ありがとう」
とてもやわらかい音だった。
「そして、さようなら」
女の引いた引き金は、重い音を空気中に放った。
黒の誘惑に魅せられた女の白は、パタリと落ちた。
トカレフの
誘惑
(110515)