エピローグ
ドカッ!
「でっ!」
シオンの横腹に激痛が走った。
(なんだなんだっ!?)
シオンは、がばっと跳ね起きた。
慌てて視線を這わすと、目の前に不機嫌そうなグレンの顔があった。
「あ…」
(やばい…)
たらりと冷や汗が頬を伝う。
ひくっと顔が引き攣る。
目の前のグレンが、にっこりと笑う。
普段は絶対に見せない表情だ。
思わず、ゾワッと背筋に悪寒が走る。
「おい、シオン。お前、なにやってんだ?」
満面の笑顔とは裏腹に、その言葉には鋭い棘があった。
「ご、ごめん…」
ごくりと唾を飲み込む。
「ったく…。もう日没だぜ?」
やれやれと言うように、グレンは溜息を吐いた。
どかっとグレンはシオンの前に腰を下ろす。
「えっ!?あっ…」
グレンの言うように、もう太陽は西に傾いていて。
空は綺麗な橙色に染まっている。
もうすぐ夜がやってくる。
「この勝負、俺の勝ちだな」
グレンが、勝ったのに全然嬉しくない、というようにぶすっと言った。
「う…」
なんだか気まずい…。
ちらとグレンの足下を見れば、ワイルドボアが2頭と野鳥が1羽。
それに対して、シオンの今日の捕獲はゼロ…。
「ははっ。まぁいいさ。…よし!村の入り口まで競争だ、シオン!」
そう言うが早いか、グレンは獲物を片手に立ち上がり、既に走り出していた。
「あ、ちょ、グレン!ずるいぞっ!」
シオンも慌てて走り出す。
(ま、いっか)
シオンの顔に笑顔が溢れた。
「ゴールっ!」
2人は同時に着いた。
「今度は引き分けだな!」
グレンがそう言ってシオンの肩を叩く。
今度は、まるで自分が勝ったかのように、満面の笑みを浮かべて言った。
「ああ!」
シオンもそれに、笑顔で答える。
そして2人は仰向けに倒れ、腹の底から笑い合った。
「…おっと!そろそろ帰んなきゃ、ディーゼルに叱られるんじゃねぇの?」
「げっ!」
グレンが体を起こし、ニヤニヤとシオンを見る。
『ディーゼル』の名前に反応し、シオンも勢いよく起き上がる。
「ほら、『シオン、貴様私を待たせるなど、1億年早いわ!』って」
ディーゼルの激怒した顔が目に浮かぶ。
「…やべぇ…!じゃ、グレン、この辺でっ!」
シオンは急いで立ち上がり、グレンに軽く手を挙げて挨拶をすると、家へと急いだ。
「ああ。じゃあな」
そんなシオンの後ろ姿を見送り、苦笑を漏らす。
(あいつも大変だなぁ…)
ガチャ
シオンがドアを開けて家に入るなり、ディーゼルの怒鳴り声が聞こえてきた。
「遅い!シオン、貴様私を待たせるなど、1億年早いわ!」
一瞬、今の状況を忘れ、彼女の言葉にシオンは思わず吹き出す。
その様子に、ディーゼルがむっとして、
「何がおかしい!」
と、ますます機嫌を損ねて言った。
「ご、ごめん!」
シオンは慌てて口を押さえる。
ディーゼルを怒らせると、あとが怖い。
「…そういえば、シオン」
「え?」
「今日掃除していたら、こんな物を見つけたのだが」
そういってディーゼルが差し出したのは、小さな赤い石。
(そういえば、結構部屋が綺麗になってるな…)
シオンは部屋を見回して、改めて思った。
「ん?ああ。それはな…」
シオンは椅子に腰掛け、話し出した。
遠い遠い、過去の記憶を…―――。
END
09.01.13 一部加筆・修正
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