第五章〜冒険の始まり〜

第二話




「おい、シオン。今日はこっちだろ?」

グレンは、すでに道が出来てるほうを指さし言った。

シオンが向いてるほうとは反対だ。

「うん、でもちょっとだけ…」

(何か、予感がする…)

シオンはまるで、磁石にでも引きつけられるかのように、体が動いた。

「…しょーがねぇなぁ」

渋々グレンもシオンの後について行った。

いつも獲物が少なく、狩人にとっては利益にならない道を。







しばらく歩き続けると、開けた場所に出た。

奥の方には大きな湖も、輝いてる。

こんな場所があったのか、と少々感心しながらも二人は湖のほうへ近づいてく。

「うわぁ…!」

シオンが覗き込んだ湖は底がよく見えるほど透き通っていて、見たことがないほど純水な水だった。

「こんな所があったなんて知らなかったな。…うわ、冷てーっ!!」

グレンは水中に手を入れ、あまりの冷たさに顔をしかめた。

と、その時、

(殺気!?)

シオンは自分の背後からの禍々しい気を感じ取り、後ろを振り返った。

するとそこにあったのは空に浮かぶ黒い煙のようなものだった。

「なんだ…!?」

「こいつ、近づいてきてる…!?」

シオンとグレンは煙を前に、目を見張る。

ただの煙ではないというころは直感でわかっているようだ。



『あと少しで力が…世界が…』



まるでさまよう魂のように嘆く暗黒の声。

悪寒が走り、冷や汗が流れた。





―やばい、殺される…!



それだけがシオンの頭に浮かび、グレンと一緒に地面を蹴った。

今自分達が持ってるものは剣と大剣。

それだけであんな化け物に太刀打ちできると思うほどバカではない。

無我夢中でどこを走ってるなんてわかりはしない。

ただ逃げないと…!



「おい、シオン。何か知ってるのか!?」

「わかるわけないだろ!」

「オレはこんなところで死ぬなんてごめんだ!」









走り続けていた二人だが人間には限界がくるもの。

あっという間に追いつかれて、今までの体力は無意味なものになってしまった。

「はぁ…はぁ…!」

「一体…なんだってんだ…」

どうしようもない焦りと、今までにない恐ろしさに足がすくむ。

しかし、暗黒の塊は無情にもシオンたちに飛び掛る。

(殺される…――!)

硬く目を瞑り、意味がないとわかっていても攻撃を防ぐため腕を前で組む。















「…?」

しかし、いつまでたっても痛みはなく、不思議に思ったシオンは恐る恐る右目を開く。

なんと想像していた奴の姿形は跡形もなくなっていた。

代わりにいたのはダークグリーンの髪を持つ不思議な女…。

片手に剣を持ってるようだ。

彼たちを助けてくれたのだろうか…?





「「あの〜…誰ですか?」」

シオンとグレンは同時にその女に尋ねた。

暖かい風が彼女の髪を揺らしたとき、ゆっくり彼女は振り返った。





「私の名は…」

辺りに、静かな空気が流れた。

音を立てるものは何もない、しんとした空間。



何かの起こる予感…。

予兆…。







「…フィーナ」



爽やかな風がザァッと吹き、3人の髪を揺らした。














LEAD OF THE DRAGONリード オブ ザ ドラゴン』 …―――





それは、ドラゴンの導き…。

そして…、







冒険の始まり…―――。









09.01.13 一部加筆・修正


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