プロローグ〜帰還〜
第一話
―シナセラ歴 3210年 対ダークヴォルマ決戦目前―
カチャン…
リースは右手に持ったチャクラムを握りしめた。
彼女の表情はいつもとは違い、真面目なものだった。
まるで、何かを決意したような…。
「みんな!今のうちに早く行くんじゃ!わらわがここでこいつらを食い止めてる隙に…な!」
行く手を阻む敵、大量のモンスターを前に、仲間に背を向けて声を上げる。
その瞬間、背後に立っているシオン、フィーナ、アルミオン、リコリスが息をのむのが解った。
ピンと緊張した空気が張り詰める。
「何言ってるんだよ、リース!!それじゃあお前が…!」
「そうですよ!この数じゃあさすがに危険すぎます!!」
シオンとリコリスが、嘘だろうとリースの背中を見つめた。
きっと冗談だ。そう思わざるを得なかった。
「黙れ!!」
2人の言葉を、彼女が制す。
リースはシオン達の方を振り向かずに、静かに続ける。
「シオンは闇と戦って勝つ、フィーナとアルミオンはシオンのサポート、リコリスはみんなを
時のモンスターの力で誘導する。
…そしてわらわは、ここでモンスターを食い止めるのが務めじゃ」
そしてゆっくりと、仲間を振り返る。
「おぬしらは生きろ」
リースのニッと笑んだ顔は、あくまで笑顔。
敵を前に、とてもゆったりとしたものだった。
なんだか、それが一生見られなくなるようで、シオンもリコリスも見ていられなかった。
しばらく沈黙が続いたが、フィーナが口を開いた。
「…リース、世話になったな」
ただ一言、そう告げた。リースとは目を合わせようとはせずに。
いつもの淡々とした言い方だったが、そこに込められた思いはその場の誰もが感じ取っていた。
だが、その声はフィーナらしくない、か細い声だった。
アルミオンも、それに弱々しい声で続く。
「…じゃあね」
リースはそれに、笑顔を崩さず、そして彼女もまたフィーナを見ずに言った。
「あぁ。おぬしらこそ気をつけてな」
リースはフィーナへとアルミオンへと頷いた。
そして、今度はシオンと向き合う。
「そして、シオン。お主は世界だけでなくフィーナも救え。約束じゃ」
シオンにしか聞こえない小さな声で、リースは呟いた。
ニッと笑む彼女の目をしっかりと見て、シオンはそれにこくりと頷いた。
(必ず…!!!)
シオンは自分に言い聞かせていた。
『グワァッ!!!』
モンスターが襲いかかり、素晴らしく尖った牙をむき出しにする。
それを合図にしたかのように、フィーナが叫ぶ。
「シオン!リコリス!!行くぞ!」
フィーナはシオンとリコリスの名を呼んだ。
アルミオンは既に前を行っている。
シオンは、フィーナに腕を引っ張られ、引き摺られるようにしてそこを後にした。
「でもフィーナ!リースを見殺しになんか…!!」
「…あいつの意思を一番無駄にしてはいけないのは貴様だろう…!生きるんだ!」
「………」
フィーナは去り際に、ちらりとリースの方を見た。
2人の目が合う。
(大丈夫じゃ…)
リースは口には出さず、微笑んだ。
離れたくない…。
一緒に戦いたい…。
シオンの頭には、その言葉しか浮かばなかった。
シオンの顔が歪んでいく。
「…くっ…!」
シオンの口から、悔しさからの声が漏れた。
ぎり、と歯を食いしばる。
リースは去りゆく仲間に再び背を向け、モンスターに攻撃を仕掛ける。
ガキィッ!!!!
モンスターの牙と、リースのチャクラムが接触し、鋭い音を立てた。
キィンッ キンッ!
次々と襲い来るモンスター相手に、リースは軽やかに身を翻し、チャクラムで応戦していく。
だがモンスターは一向に減る気配がない。
(リース…!)
シオンの胸が熱くなったその時だった。
ドゴォォンッッ!!!
「!?」
地面が大きく揺れ、爆風が辺りを包み込んだ。
ガクンと足下をとられた4人が、はっとして振り返ると、つい先程までいた場所が爆発していた。
「――――っ!!!」
黒々とした煙が上り、真っ赤な炎が視界に広がった。
目を見開いたシオンは、何か叫んだつもりだった。
だが、喉からは声にならない声が出るばかりで、空気を震わす音は何一つ出てこなかった。
マドラージェを壊してしまうほどのもの…。
リースはきっと…いや、間違いなく…
死んだのだ。
「…くっ…そぉぉおおおーーーーっ!!!!!」
シオンの頬を、一筋の涙が流れた。
だが、そんなシオンを慰めようとはせず、フィーナは言い放った。
「シオン、前を見ろ。今必要なものは後ろにはない」
09.02.08 一部修正
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