第一章〜シオン少年〜
第二話
「はぁー……」
シオンは長い溜息をついた。
ベッドに寝転がり、ぼーっと天井を見上げた。
(どうして父さんは、僕を連れて行ってくれないんだろう…)
また一つ溜息をついた。
ガチャ、バタンというドアの開閉する音が聞こえた。
(父さんが森へ出かけたのか…)
シオンは、目線だけ窓の外へ向けた。
白く薄いカーテンの隙間から、ヴィルが背に矢筒を背負い、左手に弓を持って、
森の方へと歩いて行くのが見えた。
その姿を、シオンは恨みがましく見つめた。
(父さんのケチ!)
窓の外に向かって、シオンは思い切りあかんべえをした。
「あーあっ!」
苛立ちを抑えきれず、声を張り上げて言った。
その時、シオンを呼ぶジーナの声が、階下から聞こえた。
「シオン、ちょっとお使いに行って来てくれないかしら?」
「どこまで?」
父さんのこともあり、シオンは機嫌が悪い。
少し苛立った声で返事をした。
「マーシュのお店まで、ぶどう酒を2本買いに行って来て欲しいのだけど」
「…分かった」
マーシュの店は、色んなお酒が置いてある。
主人のマーシュ・ランベロッドは、小柄で少しぽっちゃりとした男だ。
顔は少し赤くて、いつもにこにこしている。
とても印象の良い人物だ。
シオンも、初めて会った時は、少し戸惑っていたが、次の日にはもうすっかり懐いていた。
マーシュは、トールト村でも評判が良く、村一番の酒屋としても有名だ。
それほど、トールト村の人々は、マーシュを慕っていた。
シオンは少し機嫌を良くし、階下へと下りていった。
居間にはいると、ジーナは顔を両手で覆い、深刻そうな声で何かぶつぶつと言っていた。
(母さん…どうしたんだろ…?)
「母さん…?」
シオンは、おずおずと母親に声をかけた。
その声に、ジーナはびくっと肩を動かした。
「あっ…あぁ、シオン」
ジーナはひどく動揺しているようだった。
彼女はそれを必死に隠そうとし、笑顔を見せた。
が、その顔は引き攣り、かえって不気味な顔になってしまっていた。
「お使い、行ってくるよ」
「そう?じゃぁシオン、これ、お金ね。ちゃんとお釣りも貰ってくるのよ」
「うん、任せて」
シオンは、母親の行動のことには触れずに、にかっと笑って見せた。
「それじゃ、行ってきます!」
「いってらっしゃい」
ジーナの顔は、朝食の時から少ししか経っていないのにも拘わらず、青白くなり、少しやつれてしまった
ようにも見えた。
(母さん、本当にどうしちゃったんだろう…)
だが、シオンは気にしないように、ぶんぶんと頭を振った。
小走りにそんなことをしたためか、少しよろけて、危うくフォーディック・ウォブリフ自慢の野菜畑の中に
突っ込んでしまうところだった。
(危ない危ない…)
シオンは冷や汗をかいた。
マーシュの店は、もうシオンの目と鼻の先に見えた。
08.12.01 一部加筆・修正
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