第二章〜マントと木刀〜
第二話
―――次の日―――
その日、シオンはいつもよりも早く目覚めた。
その訳はもちろん、父、ヴィルに森での狩りの方法を教わるためだった。
ヴィルは、村の誰よりも狩りが上手く、シオンはそんな父親を尊敬し、その背中を見て育ってきたのだ。
「父さーんっ!」
シオンは、ベッドから起き上がるなり、部屋のドアを思い切り開け、階段をドタドタと降りていった。
「父さんっ!」
シオンは、ダイニングルームのドアを思い切り開けた。
が、そこにヴィルとジーナの姿はなかった。
「…あれ?」
シオンは腕組みをし、首を傾げた。
(おかしいな?いつもなら、父さんと母さん、僕より早く起きてるのに…。
父さんと母さん、まだ寝てるのかなぁ…?)
仕方なく、シオンは両親の寝室へと行ってみることにした。
コンコン
ガチャ
「父さん?母さん?」
ドアをそっと開け、中を覗いてみる。
そこにあったのは…、
「!あ!」
シオンは思わず声を上げる。
シオンが目にしたものは、ベッドの上に横たわり、苦しそうな様子のヴィルと、彼を必死に看病しているジーナの
姿だった。
「母さんっ!と、父さん…父さんはどうしちゃったの?」
シオンは、突然のことに不安と焦りを隠せない様子だ。
無理もないだろう。
誰よりも大切な父親が、苦しそうに目の前で横たわっているのに、自分自身はうろたえるばかりで
何も出来ないでいるのだから…。
「あぁ、シオン。父さん、急に具合が悪くなってしまって…」
シオンに気付いたヴィルが、うっすらと目を開け、弱々しい声で言った。
その言葉に、必死でヴィルの看病をしていたジーナは、背後に立っていたシオンに気付き、いったん手を止めた。
そして、シオンの方へ振り返った。
ジーナの額には、うっすらと汗が滲んでいた。
どうやら、だいぶ前から看病をしているようだ。
この急な出来事に、ジーナの顔にも、動揺している様子が伺える。
「薬は飲ませたんだけど…」
ジーナは、誰に言うでもなく、独り言のように言った。
目の前にしている夫の姿に、自分は何をすればいいのか分からない…。
「…ジー…ナ」
ヴィルが、ジーナの名を呼んだ。
「ヴィル。…大丈夫?」
見るからに大丈夫そうではないのに、ジーナは頭が混乱し、意味もない事を言ってしまった。
「す、すまない…。あぁ、そうだ。…シオン、そこにいるか?」
半分息を吐き出すように、ヴィルは弱々しく言った。
「と、父さん…。うん、ぼ、僕、ここにいるよ」
シオンは、ジーナの陰から顔を出し、今にも泣き出しそうな顔つきをして言った。
「おぉ、シオン。すまない…。どうやら、父さん、今日は約束を果たせそうにないんだ…」
「…うん」
シオンは一瞬、「父さんのうそつきっ!」と言ってしまおうかと思った。
だが、今こんな状態の父親に言えることではないので、言葉を飲み込み、とりあえず返事をした。
(本当は、すごく楽しみにしてたのに…)
シオンは、床を見つめながら心の中で呟いた。
シオンの目には、みるみる涙が溜まり、床が滲んできた。
だが、シオンは床に落ちそうな涙をぐっとこらえ、ヴィルとジーナに気付かれないように、右手で拭った。
(こんな事で泣いちゃぁダメなんだ…。我慢しなくちゃ。
父さんは、きっと約束を守ってくれる…)
シオンは、そう自分に言い聞かせた。
ぐっと奥歯を噛みしめ、パッと顔を上げて笑顔を作り、ヴィルに言った。
「ねぇ、父さん。だったら、今度はいつ行ける?」
ヴィルは、とても辛かったが、息子の期待を裏切ってはなるまいと、何とか笑顔を作り答えた。
「そうだな。…あと3日もしたら、その時こそ、一緒に森へ行こう」
シオンの顔が、ぱっと輝いた。
「約束だよ!」
「ああ」
ヴィルはゆっくりと、そう答えた。
例えその言葉が嘘でも、せめてこの瞬間 だけでもと思い、心を痛めながら、ヴィルはシオンに嘘を吐いた。
それが、してはいけないことと分かっていても、そうするしかヴィルには方法がなかった。
「それじゃぁ、シオン。朝食にしましょうか」
ジーナは、シオンの方を向き言った。
ジーナの方も、だいぶ疲れている様子だった。
シオンは、そんな母親を気遣いそうに見た。
「うん」
ジーナとシオンは、寝室を後にした。
これ以上、ヴィルに喋らせるわけにはいかない、ジーナはそう思い、シオンと共に部屋を出た。
(少し休ませないと…)
08.12.07 一部加筆・修正
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