第二章〜マントと木刀〜
第三話
朝食は、トーストと目玉焼きといった、簡単なものだった。
普段のシオンなら、もっと食べたい、と文句を言っただろうは、朝からあんな事があり、
ジーナも疲れているだとうと思い我慢した。
「僕、ちょっと出かけてくるね」
朝食を食べ終えたシオンは、そう言って席を立った。
いつもの元気なシオンの声とは、全く違い、重く沈んだ感じの声だった。
「どこに行くの?」
「マーシュのおっちゃんとこ」
「お仕事の邪魔をしないようにするのよ」
「うん」
ジーナは、シオンを玄関まで見送り、シオンがドアを閉めるのを見た後、大きな溜息を一つ漏らした。
そして、ヴィルのいる部屋へと入った。
ガチャ
「ヴィル、具合はどう?」
ドアを閉めながら、ジーナはヴィルに訊いた。
疲れている顔に、笑顔を浮かべた。
「…ジーナか。…あぁ、さっきよりはだいぶよくなったよ。薬が今頃効いてきたよ」
ヴィルは上半身を起こし、ハハハと力無く笑った。
ジーナには、それがとても無理をしているのだとすぐに分かった。
そんな夫の姿を見ていると、涙がこみ上げてきた。
ジーナは口元を手で押さえ、ヴィルに背を向けた。
「…ジーナ、そんなに悲しまないでおくれ。もういいんだ、分かっている」
ヴィルは、何かを諦めたような顔になった。
「ええ。…でも…」
ジーナは、ヴィルのやつれてしまった顔を見て、今にも泣き崩れそうになるのを、なんとか踏ん張った。
床に足が着いている気がしなかった。
宙に浮いているような感覚だった。
「シオンには…悪いことを、してしまったな…」
ヴィルは、窓の外を見ながら、唐突に話し出した。
「今思えば、もう少し早くに言ってやればよかった…。本当に…私は後悔しているよ…」
「そんなことはないわ、ヴィル。あなたは、十分にやったわ」
「そうか…」
ヴィルは、目線を膝の上に載せている手に移した。
その手に力が入り、シーツをぎゅっと掴んだ。
ヴィルの顔も、心なしか、僅かに歪んで見える。
そんなヴィルの様子を、ジーナは優しく見守った。
しばらくして、ヴィルは手の力をふっと緩めた。
「もう、私の病気は…、治らないんだな…」
ヴィルは手元を見ながら呟いた。
「…ええ」
ジーナは顔を歪め、目線を床に落とした。
「…まぁ、いいんだ。分かっていたことなんだ。…私は、とても楽しかったんだ。
君に出会えて、本当によかったよ。
シオンを産んでくれたことにも、とても感謝している。
…ありがとう」
ヴィルは、ジーナに視線を向け、にっこりと微笑んだ。
それはきっと、彼の一生の中で、一番最高の笑顔だっただろう。
ジーナも、そんな彼に応え、最高の笑顔を返した。
涙をこらえて…。
08.12.07 一部加筆・修正
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