第二章〜マントと木刀〜
第六話
「母さーん」
「あら、お帰りシオン。あら、マーシュも。こんにちは、マーシュ」
「よう、ジーナ」
マーシュは片手を挙げ、軽い挨拶をした。
その時、2人はシオンに気付かれないように、目配せをした。
「シオン、ちょっと母さん、マーシュと話があるから、部屋に戻っててくれる?」
「うん」
シオンは返事をし、素直に2階の部屋へ上がっていった。
「とりあえず、マーシュ。リビングに入って。お茶を出すわ」
「ああ」
マーシュは深刻な顔をしていた。
「…ジーナ、分かっているだろうが…」
「ええ。もう、私には…時間がないわ…」
香りの良い紅茶を、一口飲みながらジーナは言った。
カップを置く、陶器の乾いた音が部屋に響いた。
「…すまない、ジーナ」
「謝ることなんか何もないわ。これは運命ですもの」
「だが…。俺は、ヴィルの時にもジーナにも、何もしてやれない…。
ただ目の前で起こる事を見ているしか…」
「気にしないで。もう、私は十分。…ただ、一つ気になることがあるの」
「なんだ?」
「シオンのことなのだけど…」
「ああ。シオンのことなら大丈夫だ。村長に言っておいた」
「そう。ありがとう、マーシュ。安心したわ…」
ジーナはにっこりと微笑んだ。
それを見たマーシュも、ゆっくりと目を細めた。
「シオーン!夕食の準備が出来たわよ」
ジーナは階下からシオンを呼んだ。
すぐにシオンが姿を現した。
「あれ?マーシュは?」
「あ、マーシュね、もう帰っちゃったのよ」
「そっか」
ジーナは、残念そうなシオンの横顔を、名残惜しそうに見つめた。
涙が溢れそうになる。
夕飯には、シオンの好きな物ばかりが出た。
ケーキも、とろけるほどにおいしかった。
「シオン」
「ん?」
ごちそうを、腹一杯に食べたシオンは、少し苦しそうだった。
「これ、母さんからの誕生日プレゼントよ」
そう言って、ジーナは紙袋から赤い布を取り出した。
「はい、これ」
「?何、これ?」
「これはマントよ。シオンも男の子だから、かっこよくしなくちゃね」
ジーナはウィンクをし、笑んで見せた。
「わぁ!ありがとう、母さん!」
シオンは早速、マントを身につけた。
肩からかけると、まだ少し大きかったので、半分に折り腰に巻くことにした。
「もう少し大きくなったら、その時は肩からかけるといいわ」と、ジーナは言った。
「どう?」
「ええ。とても格好いいわ。よく似合ってる」
「へへへ…」
シオンは少し顔を赤らめた。
「それとね、」
「まだ何かあるの?」
シオンはわくわくした。
ジーナが微笑む。
「マーシュからも、プレゼントを預かっているのよ」
「ほんとっ!?」
シオンは言いようのない気持ちで一杯になった。
「これよ」
ジーナはそう言って、シオンに一本の木刀を差し出した。
「わぁ…」
シオンはその木刀を手に取り、しげしげと眺めた。
「マントと木刀…。僕、勇者になった気分だ!」
「ええ。とてもよく似合っているわ、シオン」
その日は、とても楽しい日だった。
ずっと、心に残るような…―。
08.12.07 一部加筆・修正
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