第三章〜グレンとの出会い〜

第一話




ヴィルがこの世を旅立ち、その後を追うかのようにジーナも旅立ってしまった…。

シオンは、この世で一番大切だった二人を、短期間で失ってしまった。

まだ小さなシオンには、それが身を切られるよりも痛く、苦しい事だった。

そんな、シオンにとって最悪と言っていい出来事から、一週間が経っていた。




「そーんちょーうっ!」

少し小高い丘の坂を走って登りながら、シオンは手を振っていた。

「おおう、シオン。おかえり。頼んでいたものは買ってきたか?」

シオンの声に気付いたトールト村の村長は畑仕事をいったん止め、

顔を上げてこちらに向かってくるシオンに笑顔で答えた。

「…っ…はっ…っはぁ〜。つ、つっかれた〜…はい、買ってきたよ」

坂道を一気に駆け上がってきたシオンは、膝に両手を載せ、肩で息をした。

ずいぶんと急いできたのだろう。

シオンの額には、汗が光っている。

シオンは小さな紙袋を、村長―ウェルノード・クエスト―に手渡した。

「ご苦労さん。…よし、OKだ」

ウェルノードは紙袋の中身を確認して、満足そうに微笑んだ。

シオンの頭に軽く手を載せ、シオンの頭を撫でてやった。

「それじゃあ、シオン。中に入って、お茶にしよう。

マーシュの奥さんから、おいしいクッキーを貰ったんだ」

シオンの肩に手を載せ、家の中へと促した。

シオンは、うん、と返事をして村長と共に家の中に入っていった。







シオンは両親を亡くし、祖父母は遠い別の村に住んでおり、探し出すのが困難だろうということで、

村長が引き取ることになったのだ。

シオンは初めは家を離れたくないと渋り、なかなか言うことを聞かなかったが、

村長の優しい言葉―


「だったら、家は残しておこう。そうして、シオンが家に来たいと思った時には、

好きな時にいつでも来るが良い。

だが、いつまでもあの家に一人でいるのは危険だ。だから、私の家で一緒に暮らそう。

狩りの仕方や、剣術を教えてあげよう」


―で、ようやく納得した。

村長はシオンに約束した通り、狩りの仕方や剣術を教えた。

今では、(村長も一緒だが)森に入って立派に狩りが出来るようになっていた。

最初に獲物を仕留めた時、シオンはとても嬉しかった。

だが隣にいるのが村長ではなく、父さんだったら、そんなに嬉しかっただろう…。




シオンの狩りをする時の格好は、『勇者』のような格好だった。

腰には母さんから誕生日に貰ったマントを巻き付け(マントは本来肩にかけるものだが)、

左側の足の付け根には、マーシュから貰った木刀を、腰巻きの下に差していた。

シオン本人もこの格好をとても気に入っていたし、村長やマーシュ、他の村人達も褒めてくれた。

シオンがこの格好をしたのには、格好良いという理由の他に母さんの形見(残念ながら、父さんの形見は、

何もなかった。シオンはそれがとても残念だった)を、いつも身につけていたいと思ったからだった。









08.12.29 一部加筆・修正


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