第三章〜グレンとの出会い〜

第二話




シオンが上手に狩りが出来るようになってから、1ヶ月ばかり経った頃のことだった。



コンコンコン



「?誰だろう?」

シオンが村長の家で本を読んでいると、玄関のドアがノックされた。

その時、村長は出かけており、シオンは一人で留守番をしていた。

村長からは、誰が来てもすぐにドアを開けてはいけないよ、と言われていたのだが、

シオンはすっかり忘れてしまっていた。

本を閉じテーブルに置くと、シオンはドアのところまで行き、

「はい」

と返事をし、ガチャリとドアを開けた。

そこに立っていたのは―、

「おや、君は…?」

ドアを開けると、そこには30代前半ほどの男女と、女性の後ろに隠れるように、

シオンと同じくらいの男の子が立っていた。

どうやら、家族のようだ。

男の子が、シオンの方をじっと見てきた。

正確には、睨んでいた。

(むっ。何だよ?睨んでくることないじゃんか)

シオンは心の中で愚痴をこぼした。

「あ…えっと、僕、村長と一緒に住んでるんだ。シオンって言うんだ」

シオンは少し戸惑いながら、男に返事をした。

「シオン君?」

男がオウム返しに訊いてきた。

「うん」



一体この人は何なのだろう?

でも、悪い人ではなさそうだ。

男の、この家族だと思われる3人からは、不思議と嫌な感じはしなかった。


「村長さんは、いるかな?」

男が少し腰を曲げ、シオンの目線に合わせて、微笑みながら訊いた。

それまでずっと上を向いていたシオンの首が、まっすぐになる。

正直、だんだんと首が痛くなってきたシオンにとって、ありがたかった。

「村長、今出かけてるんだ」

シオンは申し訳なさそうに、おずおずと答えた。

「そうか…。困ったな…」

それを訊いた男は、顎に手をやり、少し困ったように眉間に皺を寄せた。

そして、軽い溜息を一つ吐いた。

「何か用事があるの?」

何か助けになれることはないだろうかと、シオンは遠慮がちに訊いた。

「ん?ああ。私達家族は、この村に引っ越してきたんだよ。

それで、村長に挨拶を、と思って来たんだが…」

男は、片眉をちょっと上げて答えた。

「そっか、じゃあおじさん達は、あたらしいトールトの人達なんだね!

あ!ねぇ、ここで待ってたらいいよ。村長、すぐに帰って来るって言ってたから」

シオンは、顔をパッと輝かせ男に提案した。

「そうかい?それじゃぁ、そうさせてもらうよ」

男はシオンの提案に応じるように、微笑んだ。

そして、後ろを振り返り妻と息子を呼んだ。

「紹介するよ、シオン君。まず、私の妻、フェルヴィーナ・サドラス」

男に呼ばれたフェルヴィーナという女は、優しく微笑み、

「こんにちは。これからよろしくね、シオン君」

と言った。

その優しい笑顔に、シオンは母、ジーナのことを思い出し、涙が出そうになった。

(母さん…)

「それからこっちが、私の一人息子のグレンだ」

グレンと呼ばれた男の子は、母親に背中を押され、一歩前に出た。

「………」

(どうしたんだろう?)

シオンは首を傾げた。

自分と同じくらいの男の子に、シオンは興味を持っていた。

この子の声を聞いてみたいという思いが、どんどん溢れ出てくる。

「グレン、ちゃんと挨拶しなさい。シオン君は、今日からあなたのお友達になってくれるのよ」

フェルヴィーナが、優しくグレンの肩に手を載せた。

「…よろしく」

ぶっきらぼうに、シオンとは目を合わせずそっぽを向いたまま、グレンは言った。

「グレン!すまないね、シオン君」

男が、グレンという男の子、軽く叱った。

「ううん」

別にいいよ、というように返事をした。

(この男の子、グレンって言うんだ。…いつも、こんな感じなのかな?)

シオンは、男の子―グレン―の名前がわかって、嬉しかった。

変に思われてはいけないと思い顔には出さなかったが、心の中では思い切り笑顔を作っていた。

「そして、私がジェノム・サドラスだ。よろしく」

ジェノムと名乗った男は、シオンに右手を差し出した。

「よろしく」

シオンは笑顔を作り、その手を握った。

ジェノムの大きな手は、生前のヴィルを思い出させる、大きくて温かい手だった。




ジェノムの話によると、グレンの目つきの悪さは生まれつきらしい。

おかげで、睨んだつもりはないのだが、睨まれたと誤解されることが少なくないという。

特に、初対面の人間からすれば…。

シオンは、それを聞いて納得した。







しばらくして、村長が帰ってきた。

サドラス親子と村長は軽く挨拶を交わし、サドラス夫婦と村長が雑談を始めた。





「父さん」

グレンが、ジェノムの服の袖を引っ張った。

「ん?何だ、グレン?」

それまでの談笑が、一時中断された。

「俺、ヒマだから外に行ってくるよ」

グレンは、窓の外を指しながら、父親に告げた。

大人達の会話は、グレンにとってはつまらなかった。

「ん?あぁ、構わんよ。だが、あまり遠くへ行かないように気をつけるんだよ」

「うん」

少し嬉しそうに頷き、グレンはドアを開けて外へ出て行った。

どうやら、早速この村を探検しに行くようだ。




「ん?」

シオンは、2階の自分の部屋から窓の外を見ていた。

そこへ、あのグレンという男の子が出てきた。

(あいつ…。どこ行くんだろう?)

まだ村に来たばかりだというのに、一人でどこかへ向かって歩いていくグレンの姿を目で追っているうちに、

シオンはあることを思いついた。

そして、シオンの口元が歪んだ。



ニヤリ



(後を付けてやろう!)

シオンは階段を下り、部屋のドアを開け村長に言った。

「村長!僕、ちょっと外に行ってくるね!」

「…ああ」

勢いよく出て行ったシオンに、村長は呆気にとられた顔をした。

シオンが、狩りに行くとき以外に、外へ出かけるのが楽しそうな表情をするのは珍しいからだ。

村長は少し不思議に思ったが、止める理由もないので許可を出した。

シオンは、村長の返事を聞くと、急いで外に出た。

(あいつ、どこに行ったんだろう?)

辺りをきょろきょろと見回した。

だが、もちろんもうそこにはグレンの姿はない。

(確か、あっちの方に行ってたよな…)

シオンは、走り出した。









09.01.07 一部加筆・修正


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