第三章〜グレンとの出会い〜
第五話
シオンとグレンが村長の家の中に入り、村長とサドラス夫婦のいる部屋に入ると、
3人は2人の姿を見るなり、『開いた口が塞がらな』くなった。
「シオン、おまえ…」
「グレン、一体、何してたんだ…?」
村長とジェノムが同時に言った。
フェルヴィーナに至っては、声も出ない様子だった。
無理もない。
二人の姿は、体中泥だらけで、顔にはたくさんのアザ、腕は擦り傷だらけで血も出ていた。
「ケンカ…したのか…?」
村長は喉をゴクリと鳴らしながら言った。
その声からは、「まさか、初日からケンカなんて…」と言うよな、不安と焦りが読み取れた。
サドラス夫婦の顔色は青ざめていた。
ハラハラドキドキ、だ。
「ははは。ケンカはしたよ。でも、もう俺達は友達だ!ケンカは男の友情だぜ☆」
グレンは、そんな大人達の不安をよそに、意味不明なことを言っている。
「なっ!そうだよな、シオン!」
グレンはシオンに同意を求めるように、シオンの背中を思い切り叩いた。
「〜〜〜〜っ…!」
シオンはこの痛みが声にならなかった。
だがそれを我慢して、村長とサドラス夫婦に言った。
「う、うん!はは…」
シオンは何とか笑って見せた。
かなり引き攣っていて、無理をしているのがバレバレだったが。
「そ、そうか…。はは。それならいいんだ…」
村長の顔は引き攣っていた。
サドラス夫婦も、とりあえずは、ほっと一安心したようだ。
* * * * * * * * *
次の日から、シオンとグレンは毎日のように一緒に遊んだ。
そして、今日も、いつものようにグレンのところへ行く約束になっていた。
「村長、俺、ちょっとグレンのとこに行って来る!」
シオンは、畑を耕している村長に声を掛けた。
また新しい野菜を育てるらしい。
「おーう!気をつけてな」
村長が言い終えた時には、既にシオンの姿は小さくなっていた。
「ふぅ…」
額に光る汗を、首にかけていたタオルで拭いた。
(シオンも、グレンが来てからずいぶん変わったなぁ…)
ウェルノードの顔が綻んだ。
(いつからだろうか…。シオンが自分の事を『俺』と呼ぶようになったのは…)
まるで、本当の息子のことのように、ウェルノードは嬉しかった。
「なぁ、シオン」
「ん?」
橋の入り口で、今日の計画について2人は話し合っていた。
いつもここが待ち合わせ場所だった。
「今日は、ちょっとボウケンしてみないか?」
「ボウケン?」
「そう」
ニヤリ
グレンは、明らかに何かを企んでいた。
シオンにもそれがわかった。
ニヤリ
シオンの唇の端も持ち上がった。
どうやら、同意したようだ。
「で?どこに行くつもりなんだ、グレン?」
シオンがグレンに訊いた。
それを、待ってました!というように、グレンは白い歯を見せてニィと笑って見せた。
「ほら、前に森に狩りに行った時、な〜んか怪しげな洞窟があったろ?そこに行くんだ」
「洞窟?」
シオンは、少し考え込んだ。
最近ではグレンと2人で狩りに行くこともしばしばある。
村長が、グレンならしっかりしているから、シオンと2人でも大丈夫だろうと言ってくれたのだった。
とは言うものの、やはり2人はまだ子供。
狩りと言っても、せいぜい森の入り口付近までで、奥へは行かせて貰えない。
だが、シオンは、グレンは自分と同い年なのに、と少し悔しかった。
「…あー、あそこか!うん、OK」
数日前の記憶を辿り、シオンは一つの洞窟を思い出した。
確かに、思い返せばなんだか怪しい雰囲気だったような。
「よし、じゃ、行くか!」
「おっし!」
2人は早速、森へ出かけた。
これから始まる長い一日のことなど、この時の2人はまだ知る由もなかった…。
09.01.07 一部加筆・修正
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