第四章〜星の石と2人の友情〜
第三話
『……を…せ……』
「えっ!?」
「なんだ!?」
どこからともなく聞こえてきた不気味な声…。
洞窟中に響いて、まだ微かに残っている。
2人は困惑した。
(ま、また地震っ!?)
(今度は一体なんだっ!?)
シオンとグレンは、それぞれ再び心配が胸をよぎった。
『星の石を…元に戻せ…』
一瞬、2人は言葉の意味が理解できなかった。
「なん…だって…?」
シオンとグレンは顔を見合わせた。
今度の声は、2人の耳にもはっきりと聞こえた。
「『星の石』を元に戻せ、って…」
「どういう事だろう?」
お互い困った顔で顔を見合わせる。
石を戻せ、とは一体どういう事だろうか…。
「さぁ…」
と、そのとき。
ズガッ
ガラガラガラ……!!!
「え!!?」
「っぅわっ!」
突然、グレンの左側にあった壁が崩れ落ちた。
壁の奥は空洞となっているようで、中から何かが出てきた。
その『何か』は、まるで…、
「か、怪物っ!?」
「いや、こいつは違うぞ、シオン」
グレンの顔は、引き攣った笑みを浮かべていた。
さすがグレン。
シオンとは違い、冷静だ。
シオンは、初めて見る怪物を目の前にし、すっかり冷静さを失っていた。
「モンスターだ!」
トーンを落として、グレンはどすを効かせた声でシオンに言った。
その声に、シオンはますますその怪物…いや、モンスターが恐ろしく思えた。
「とにかく…」
じり、と左足を引くグレン。
「逃げるぞっ!!!」
グレンはそうシオンに向かって叫びながら、全速力で走り出した。
「う、うん!」
シオンもグレンに続き、全速力で走り出した。
だが、さっきの地震で方向感覚を失ってしまったのか、出口とは反対方向、つまり洞窟の
更に奥へと進んでしまった。
「ねっ、ねぇ、グレン!」
シオンは何か異変に気付き、グレンの名を呼んだ。
「なんだっ!?」
グレンは後ろを気にしながら走っていた。
モンスターはまだ追いかけてきている。だんだん、2人との距離は縮まってきていた。
(まずいな…このままじゃすぐ捕まっちまう…)
ちら、と目線をシオンの方に向けた。
「ちっ」
まだだいぶ離れてはいるが、確実にモンスターは2人の方に迫ってきている。
やはり、まだ5歳の2人には、モンスターのスピードには敵わない。
「あ、あのさ、さっきから全然出口に着かないよっ?
も、もしかして、ぼ…俺達、更に奥に来ちゃってるんじゃ…」
「っなんだとっ!?」
グレンは驚きのあまり、素っ頓狂な声を上げた。
そして、シオンの冷静な判断に、グレンは「俺としたことが…道を間違えたのかっ!」と悔やんだ。
シオンの方を向いたグレンの顔は、混乱とも焦ったとも言えない、奇妙な顔だった。
シオンは吹き出しそうになったが、今はそんな状況ではない。
「あ、あれ!」
シオンは前方を指さした。
「ん?あっ!」
グレンもシオンの指す方を見た。
シオンの指さした先には、広く開けた場所があった。
「よし、あそこでいったん止まろう。それから考えるんだ!」
「うん!」
シオンとグレンは空き地に着くと、すぐに後ろを振り返り、各々腰に下げている木刀(グレンのは、シオンの
2倍ほどある大きめの木刀だった。大剣が欲しい、と言うだけのことはある。)を取り出し、
戦闘モードに入った。
だが果たして、本当にこんな木刀でモンスターが倒せるのだろうか…?
「ぼこぼこにしてやるっ!」
「来るなら来やがれっ!」
2人は覚悟を決めた。
そして、
ザザザザザ………
巨大蜘蛛のような、なんとも不気味なモンスターが空き地に入ってきた。
体の色は、黒と紫を混ぜたような色で、その真ん丸な巨体からは12本もの太く長い足が生えている。
その姿を見たシオンとグレンの反応は、
(ゲッ!)
(気持ち悪っ!)
妥当な意見だ。
2人の背筋には悪寒が走り、体中に鳥肌がたった。
だが、今更後に引くわけにもいかない。
逃げる場所もないのだから。
唯一の逃げ場は、今2人が入ってきたところだけだ。だが、自らの危険を冒してまで逃げ出すことは、
5歳児の2人にも不可能だろうということが分かった。
「こうなったら、やるしかないぜ、シオン!」
顔は向けず、グレンは引き攣った笑みを浮かべシオンに言った。
「うん…・そうみたいだね…」
シオンの顔にも、引き攣った笑みが浮かんでいる。
2人は目線を交わした。
「行くか?」
「おうっ!」
ダッ!
二人は一斉に飛び出した。
09.01.08 一部加筆・修正
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