第四章〜星の石と2人の友情〜

第四話




左右に分かれて、巨大蜘蛛を挟み撃ちにする。

「でやーっ!」

先に攻撃を仕掛けたのはグレンだ。

思い切りジャンプをし、巨大蜘蛛の頭めがけて木刀を振り下ろす。



ボコッ!



さすがは木刀。

何とも手応えのない音。

『………』





暫くの間、沈黙が続く。

どうやら巨大蜘蛛には全く効いていないようだ。

「くっそぉ〜…!やっぱり木刀なんかじゃ無理だ!」

グレンは唇を噛んだ。

無理もない。

グレンにとって、今のが本物の剣だったら、きっとキマッていた、最高の一撃だったからだ。



『待て…』

「?」「?」

巨大蜘蛛が話しかけてきた。

『私は…戦うつもりなど…ない…。…星の石を…元に戻せ…』

「も、元に戻せって、どういう事だよ!」

グレンが牙を剥く。

本当なら、こんな不気味なモンスターに話しかけたくはないのだが、事情が事情なのだから、

仕方がない。

グレンは少しばかり逃げ腰になっている。

『元にあった場所に…石をはめ込め…。また…地震が起こる…』

(!さっきの地震、石を取ったせいだったのか!?)

どうやら、グレンも同じ事を思ったらしい。

シオンの方を向き、目で頷いた。

グレンの額には、冷や汗が流れていた。

『早く…しろ…』

「………」

『どうした…?』

グレンの喉を、ゴクリと音を立てて唾が落ちた。

辺りがシンとしているだけに、やけにその音が大きく聞こえる。

「もし…イヤだと言ったら…?」

『なに?』

「俺達は、この石のために、頑張ってここまで来たんだぞっ!?」

シオンも負けじと言い返す。

『…ならば、力ずくで奪うまでだっ!』



グワッ!



巨大蜘蛛は、足を1本持ち上げ、シオンとグレンに振りかざしてきた。



ガッ!



2人はすんでのところで交わした。

巨大蜘蛛の足は、2人のすぐ側の岩壁に当たり、跡形もなく崩れ落ちた。

(ひえ〜…)

(もしこんなのが直撃したら、俺達ひとたまりもないぜ…)

シオンとグレンは、巨大蜘蛛の崩した岩壁を見て、ゾッとした。



ガッ!

ドッ!

ボコッ!

ガガガッ!

グワッ!

ベキッ!


…………――――









しばらくの間、シオンとグレンの木刀と、巨大蜘蛛の攻撃が続いた。

お互い一歩も引かない。

(ちっくしょ〜!)

シオンは、ここまで全速で走ってきたのと、それまでの長い道のりを歩きづめだったことから、

もう体力に限界が近づいてきていた。

(っ!ダメだ!このままじゃ、やられる…!)

そう思ったとき、気が緩んでしまい、まともに巨大蜘蛛の攻撃を食らってしまった。



ガッ!



「っぐぁっ!」

シオンの左頬に、巨大蜘蛛の足がまともに直撃した。

シオンは、一瞬何が起こったのか分からず、頭が真っ白になった。

2メートルほど後方に吹っ飛ばされ、背中から地面に落下した。

「っ…!」

すぐに立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。

どうやら、シオンなりには上手く受け身を取ったつもりだが、足を挫いてしまったらしい。

(やばい…!)

シオンは顔をしかめた。

だが、足の痛みよりも、シオンの心を痛めたことがあった。

(この足じゃ、グレンの足手まといだ…)

ただでさえ余裕のない事態であるのに、自分が足手まといになってしまうなんて…。



ギリッ



シオンは唇を噛んだ。

唇の端から、つーっと赤い血が一筋流れた。

「!シオンっ!」

グレンが、目線だけシオンに向けた。

グレンの方も余裕ではない。

手足は切り傷だらけだし、痣も所々に出来ている。

「大丈夫かっ!?」

少し離れた所から、巨大蜘蛛の攻撃を警戒しつつグレンが声をかける。

「うん」

だが、シオンの傷は深かった。

左頬は大きく裂け、おびただしい程の血が流れている。

その傷が、あと2ミリ深ければ確実にシオンの頬を貫いていた。

「くっ…!」

シオンの神経に再び痛覚がよみがえり、あまりの痛さに麻痺していた感覚がなくなりかけていた。

おまけに、毒があったらしく、傷口が緑色に変色していく。

(ダメだ…。頭が…ぼーっとしてきた…)

シオンは目の前で起きていることが、分からなくなっていった。

(グ…レン…)





シオンは、深い、深い闇に墜ちていった…―――。







「!シオンっ!?」

ドサッと音がしてグレンが振り向くと、シオンが倒れていた。

グレンの顔が、みるみる青ざめていく。

(シオン…!まさか、死んだんじゃないよな…!?)

グレンの心に、不安と焦りがこみ上げてきた。

だが、グレンもシオンの心配をしている余裕など、はっきり言ってなかった。



グワッ!



再び巨大蜘蛛の攻撃がグレンに襲ってきた。

「ぐっ!」

グレンも、さすがに体力の限界が近づいてきた。

このままでは、2人ともやられてしまうのがオチだ。

もし運が悪ければ、2人を待つのは『死』のみ。

それだけは、なんとか避けなければならない。

(俺にもう少し…力があれば…!!!)

グレンは非力な自分を恨んだ。

「…っくしょっ…!!!」

グレンは舌打ちをした。









09.01.08 一部加筆・修正


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