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第四章~星の石と2人の友情~
第五話
シオンは、闇の中にいた。
どこまでも、真っ暗な闇…。
(ここ…、どこだろう…?)
シオンは周囲を見回してみる。
何もない…。
(…あれ?なんだろう、あれ…?)
シオンの目線の先に、小さな丸い発光体があった。
その光からは、優しい雰囲気が漂っている。
するとそこから、すぅっと人影が現れた。
(!父さん!母さん!)
ぼんやりとした人影は、ヴィルとジーナの姿になっていった。
『シオン…。お前はまだ、ここへ来てはいけないよ…』
ヴィルが優しく言い、そっとシオンの肩に触れる。
だがそこに重みはないし、体温も感じない。
半透明な体は、シオンに触れることは出来なかった。
(っ!父さん!)
実体のない父親を見て、泣き出しそうなシオン。
目の前に触れることすら出来ない…。
ヴィルは、その一言だけ告げると、また空間の中に消えていってしまった。
声を出して叫んだつもりが、声が出なかった。
父親を追いかけて上げた手は、掴み所を失い空を掴んだだけだった。
『シオン、よぉく見て…』
ジーナの声に、後ろを振り返るシオン。
(母さん…)
だが、そのジーナの体も半分透けていて、今にも消えてしまいそうだ。
『まだあなたには、大切なものがあるわ…。見逃してはダメよ、シオン…』
そして、そっとシオンの頭に触れる。
自分自身が、息子に触れることが出来ないと分かっていても、手が伸びてしまっていた。
ジーナの顔は、シオンと同じくらい、いやそれ以上に、切なく淋しそうなものだった。
(母さんっ!)
そしてジーナも、闇に消えていった。
後少しなのに、届かない手…。
涙がこみ上げてくる。
『泣いてはダメだよ、シオン…』
『泣かないで、シオン…』
ヴィルとジーナの声だけが、シオンの耳に届いた。
シオンは、こぼれそうになっていた涙をぐっと堪える。
『そうだよ、シオン』
『母さん達は、ずっとシオンを見守っているわ…』
ヴィルとジーナの笑顔が見えた気がした。
(父さん、母さん…)
シオンは、ヴィルとジーナの消えていったところを、しばらく見つめていた。
(それにしても、ここ、本当にどこなんだろう…。
さっきまで、グレンと一緒にモンスターと戦っていたはずなのに…。
確か俺、モンスターの攻撃を食らって、倒れたはずなのに…)
真っ暗な闇。
どこまでも続く、果てのない宇宙とそっくりだ…。
方向感覚は、全く掴めなかった。
(…?)
シオンの目線の先に、再び発光体が現れた。
だがさっきの発光体とは違い、元気のみなぎれるような雰囲気だった。
シオンは、吸い寄せられるように、その発光体に近づいていった。
(もしかしたら、父さんと母さんがまた出てきてくれるかもしれない…!)
シオンはその発光体に、恐る恐る手を伸ばしてみた。
(!?)
その発光体から、突如眩しい程の光が発せられた。
(まぶしっ!目が…開けられない…)
ようやく光が収まった時、シオンの前に一人の人間の姿があった。
(!)
そこにいたのは、紛れもなくグレンだった。
(グレンっ!)
シオンは驚き、そして安心したような顔つきになった。
だが、グレンはただニカッという表情をしているだけで、何も言わない。
(どうしたの、グレン…?)
グレンのそんな様子に、シオンは急に不安になった。
一歩、足を踏み出してみる。
だが、手を伸ばすことは出来なかった。
『シオン…』
グレンの声が、シオンの脳内に直接響いてきた。
目の前にいるグレンは、相変わらず笑っているだけだ。
『シオン、お前も男だろ?だったら、こんなトコでくたばってる場合じゃないぜ?
星の石、持って帰るんだろ…?』
優しく、勇気づけられる声だった。
シオンは、体の中心から、何かがふつふつと沸き立つのを感じていた。
(そうだ…。俺は、帰らなくちゃいけないんだ…)
グレンの『声』は、シオンの気持ちを悟ったかのように、
『そうだ。だから…早く帰って来いよな…っ!』
そして、グレンの『姿』は、シオンから遠のき闇の中に溶けていった。
(そうだ…。今、俺にはグレンがいる。マーシュや村長だって…!)
シオンの心に、勇気と希望が湧いてきた。
(出口を探さなくちゃ…!)
シオンは、再び歩き出した。
(…あ。また…?)
シオンの目の前に、三度目の発光体が現れた。
それは今までの発光体とは違い、黒く霞んでいた。
だが、この闇の中でも、はっきりと見ることが出来る。
まだ先の見えない、未来のよう…―――。
発光体(実際には、あまり光っているようには見えないが)から、一人の女が現れた。
(誰だろう…?)
彼女は、シオンが今までに見たことのない人物だった。
黒に近い深緑色の髪…
兎のような長い耳…
額には、真紅の丸い宝石…
顔ははっきりと見えなかったが、シオンにはなぜか、彼女の顔が想像できた。
女が口を開いた。
『………』
唇は動いているのだが、シオンには彼女の声が全く聞こえなかった。
やがて、彼女の姿が遠のいて、薄くなっていく…。
(待って!行かないで!)
何故か、シオンはそう口走っていた。
どうしてだろう、自分には彼女を引き留める理由などないのに、体が勝手に反応していた。
だがシオンの言葉を無視し、彼女はどんどん姿が見えなくなっていく。
そして、彼女は完全に闇の中へ消えてしまった。
だが、彼女の姿が消える瞬間、シオンの脳に彼女の一言が届いた。
『待っているぞ…』
この時のシオンには、この言葉の意味は理解出来なかった。
(待って…いる…?)
何のことだろう、と首を傾げたその時、
(うっ!)
突如、辺りが眩しくなった。
闇が光に飲み込まれていく…。
(な、なんだっ!?)
シオンは、光の中に、真っ逆さまに落ちていった。
(うわぁあああーーーっっ!!!………)
09.01.12 一部加筆・修正
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