第四章〜星の石と2人の友情〜

第六話




シオンが、まだ闇の中で彷徨っている時だった。



『我が名は…ヴァイトラージニス…。貴様らのしでかした罪、許されざる事だぞ…!』

(な、なんだっ!?)











シオンが倒れたすぐ後のことだった。

『ぐっ…うぐっ…うう…っ』

(!?)

巨大蜘蛛が、突然苦しみだしたのだ。

「どうしたんだっ!?」

敵だというのにも拘わらず、グレンは思わず声を掛けた。

目の前で苦しがっているのを、みすみす見過ごすほどグレンは腐っていない。



ベキッ…

ベキベキンッ…

ズオッ…

ゴゴゴ…



(なんか…めちゃくちゃヤバそうなんですけど…)

ひくっと顔を引き攣らせるグレンの額には、冷や汗が流れた。

グレンは、目の前で起こる巨大蜘蛛の異変を、ただ見ているだけだった。

巨大蜘蛛の体は、嫌な音を立ててひび割れていく。

ちょうど、サナギが蝶になる時の様子にそっくりだった。

『ぐっ…がっ…ぐぁああっ!!!』



ペキッ…

ペキペキッ…



もうほとんど、巨大蜘蛛の姿はなくなっていた。

無惨に地面の上に散らばる巨大蜘蛛の『殻』…。

それは、目を背けたくなるような光景だった。

(うっ…げっ…)

グレンの体に、吐き気が襲ってきた。

口元を手で押さえ、必死でそれを堪えるグレン。

そして…―――



パキンッ…!―――



巨大蜘蛛の『体だった』モノから、眩しい光が発せられ、中から現れたのは…、

『我が名は…ヴァイトラージニス…。貴様らのしでかした罪、許されざる事だぞ…!』

(な、なんだっ!?)

”ヴァイトラージニス”と名乗った物体は、人間に似た体だった。

ヴァイトラージニスは、どうやら見かけは女のようだった。

頭からは触覚のようなものが2本生え、クリーム色の長い髪、

そして額と頬には刺青のようなものがある。

布をまとったような服装をしている。

そこから伸びる手足は、すらっと長く雪のように白かった。

(はぁ〜…)

グレンは、その言いようのない姿にうっとりと見惚れてしまった。

(おっと、いけねぇ…)

グレンはハッと我に返り、首を左右にぶんぶんと振った。

「お、お前、何者だ!」

『…ヴァイトラージニスと、名乗ったであろう…?』

正にその通りだった。

「ぅぐっ…」

無意味な質問をしてしまった自分を、グレンは恥じた。

「そ、そういう事じゃなくてっ!さっきの…きょ、巨大蜘蛛はどこへ行ったんだよっ!?」

グレンは、チラッと地面に散らばる巨大蜘蛛の殻を見た。

先程の光景は、脳と瞼にくっきりと残っていた。

思い出したくもなかった。

思い出せば、また吐き気が襲ってくるだろう。

『…ん?フッ。ああ、あやつか。あのクソの役にも立たないデカブツか。

確か…名をベルマディ、と言ったか…』


ヴァイトラージニスは、巨大蜘蛛―ベルマディ―を愚弄したような言い方だった。

見かけによらず、口が悪い。

「っな!?あいつ、あれでも結構強かったんだぜ!?」

悪戦苦闘していた割には、よく言ったものだ。

さすがはグレンと言ったところだろう。

『あやつが?強いだと?…フッ、ハハハハハ!笑わせるでないぞ、小僧。

あんなヤツ、私の足下にも及ばぬぞ』


くっ、とグレンを見下し吐き捨てるように言った。

その顔は、邪悪に歪んでいた。

(なん…だと!?俺達、あいつにあれだけ悪戦苦闘したのに…。

こいつ、それ以上の強さだっていうのか!?)

ベルマディにあれほど苦戦したのに、ヴァイトラージニスに敵うわけがない。

しかも、今はさっきまでとは違って、シオンはいない。







グレンは、たった一人なのだ。









09.01.12 一部加筆・修正


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