第四章〜星の石と2人の友情〜
第七話
ヴァイトラージニスが完全に現れる、少し前。
(…あれ?俺…戻って来た…のか?)
シオンは意識が戻ってきていた。
うっすらと目を開けると、ごつごつした岩肌が目に入る。
ひんやりとした感触が、現実を意識させた。
「…っ!」
意識が戻ると同時に、痛みがシオンの脳を刺激した。
ついさっき、ベルマディから受けた攻撃で足を挫いた時のものだった。
(くっ…。せっかく戻って来たのに、まだ体が動かない…。
早く、グレンを助けに行かなくちゃ…。
この足さえ、なんとかなれば…!!)
顔をしかめ、首を少し上げて忌々しそうに自分の足を見つめるシオン。
『その願い、私が叶えましょう…』
(えっ!?)
突如響いた声と共に、ふわっと優しく柔らかい光が、シオンの挫いた右足を包み込んだ。
(今度はなんだ…?)
先程から次々と起こることに、シオンは動揺を隠しきれないでいた。
しばらくして、光が消えた。
(!足の痛みが…消えてる…?)
シオンの挫いた足は、光によって完璧に治っていた。
だが、一体あの光の正体は…?
しかし、今のシオンには光の正体などどうでもよかった。
とにかく、今は一刻でも早くグレンの加勢に行かなければ。
(グレンは!?)
シオンは体を起こし、グレンのいる方向を見た。
その時、グレンはヴァイトラージニスとの『会話』を終え、戦闘態勢に入っていた。
そして、グレンがヴァイトラージニスに飛びかかっていった。
「でやーっ!」
『フンッ』
ヴァイトラージニスは、いとも簡単にグレンの攻撃を避け、ふっと息を一息グレンに浴びせた。
「わっ!」
するとグレンの体は、まるで風に舞う木の葉のように宙に舞った。
ドカッ!
たった一息で、グレンは遙か後方に吹き飛ばされた。
岩壁に体を打ち付けられ、体の半分が岩壁にめり込んだ。
(たった…一息で…)
ガラッ…
グレンは何とか立ち上がった。
体中に激痛が走る。
もうダメか、と思ったその時だった。
「グレンっ!」
「!シオン!お前…!」
シオンがグレンの側に駆け寄ってきた。
その姿を見たグレンの顔は、みるみる崩れていった。
「へっ…ったく、遅ぇんだよ!」
グレンはふいっと顔を反らせていった。
だが、その目には涙が滲んでいた。
(っ…よかった…。シオンが無事で…)
「へへっ…ごめんっ!」
シオンは申し訳なさそうに弱々しく笑い、グレンに謝った。
「…ところで、あいつ、一体なんなの?」
シオンは、キッとヴァイトラージニスの方を睨みながら言った。
(あいつが、グレンをこんなにしたんだな…)
シオンの胸に、怒りが込み上げてきた。
一体、自分が気絶している間に何が起こったのか?
そして、地面に散らばっている欠片…。
(きっとあれは、さっきの巨大蜘蛛のだ…。足があちこちに落ちてる…)
顔をしかめ、それらを見つめるシオン。
「ああ。さっきの巨大蜘蛛…ベルマディって名前らしいんだけど、そいつの中から出てきたんだ。
名前はヴァイトラージニス。…俺にもさっぱりなんだ…」
グレンはシオンに助け起こされながら説明した。
2人のその会話の間、ヴァイトラージニスは、まるでハンデをやると言ったように、
黙って見ていた。
『話は終わったか?』
「「…ああ」」
シオンとグレンは声を揃えて言った。
2人の目は、目の前に立ちはだかる敵を、ギッと見据えていた。
『では…今度は私からゆくぞっ!』
グワッ!
ヴァイトラージニスが、一瞬にしてシオンとグレンの目の前に移動してきた。
「!?」
「っ…!」
2人はその一瞬の出来事に、思わず後ずさりをする。
本当に、彼女を相手に自分たちは勝てるのだろうか…?
『ウォンディションッ!』
ヴァイトラージニスが、何やら呪文を唱えた。
ゴウッ!
さっきとは桁違いの強風が、2人を襲う。
「うっ!」
「くっ…!」
2人は何とか踏ん張った。
が、次の瞬間!
「ぅわっ!」
「…がっ!」
ズガッ!
ガガッ!
2人は再び吹き飛ばされ、岩壁に背中を打ち付ける。
風圧がさっきの倍以上あるので、激突した時の痛みもさっきの倍以上…。
ズズッ…
岩壁の表面を滑り落ち、地面に尻を着いた。
「………」
「………」
2人は、気絶寸前だった。
声が全く出ない。
『くくく…もう終わりか…?』
ヴァイトラージニスが、喉を鳴らして笑う。
今のは、彼女にとって、全力のほんの一部しか出していないのだろう。
「…ま、まだまだ…だ…!」
「ちょっとびっくりした…だけ、だ!」
ガラッ
パラパラ…
シオンとグレンはなんとか起き上がり、再び木刀を構える。
だが、2人とも既に戦える状態ではない。
「はぁっ…はっ…」
(どうすれば…いいんだろう…?)
「ぐっ…はっ…はぁっ…」
(くそ…ぅ。全然、歯が立たねぇ…)
激しく肩を上下させ、息を荒くしている2人。
2人は、必死で何か勝てる方法を考えた。
だが、何度もの強い攻撃と、まだ未発達な2人の脳では、
この強敵ヴァイトラージニスに勝つ方法が見つからない。
(俺達じゃぁ、こいつに勝てないのか…!?)
(絶対絶命…ってやつなのか…!?)
2人が半ば弱気になっていた、その時だった。
『あなた達に、力を貸しましょう…』
すぅっと体内に溶け込むように、2人の耳に優しい声が響いた。
(さっきの声と…同じ…!?)
(なんだ…!?)
パァッ…
辺りに優しい光が立ちこめ、2人を包み込んだ。
09.01.12 一部加筆・修正
[NEXT]
[BACK]