第四章〜星の石と2人の友情〜

第八話




『な…!なんだ、これはっ!?』

ヴァイトラージニスは、目の前で起こる不思議な出来事にうろたえた。

だが、その気持ちはシオンとグレンも同じだった。

「「…っ!」」







2人が光から解放された時、体中にあった傷は癒え、元通りの元気な姿に戻っていた。

体のあちこちに目線を這わせ、今までの傷がなくなっていることを確認する。

(一体…)

(何だったんだ…?)

顔を見合わせる2人。

だが、次の瞬間には勝利の笑みが浮かんでいた。

「な、なぁ、シオン…」

「うん…。なんだか、力が湧いてくる…!」

「これなら、負ける気がしねぇ…!」

拳を握りしめ、ふつふつと力がみなぎるのを感じる。



『そうです…。さぁ、戦いなさい…。あなた達なら、きっと彼女を倒せます…』

相変わらず、声の正体は分からない。

誰が、どこから喋っているのだろうか。

その姿を捉えることが出来ない。

「待って!」

「お前、何者なんだっ!?」

だが、2人の質問には答えず、その『声』は消えていった。

どうやら、敵ではなさそうだが…。

「シオン…なんかよくわかんねぇけど、いっちょやるか!」

「うん!」

2人は再びヴァイトラージニスに向かっていった。

だが、



ズンッ!



「「!?」」

ガクンと再び洞窟が揺れだした。

しかも、さっきのものとは比べものにならない程大きな揺れだ。

『っ!だから…早くしろと…言ったのに…!!!』

ヴァイトラージニスが焦った表情になった。

シオンとグレンも、どうしよう!?と顔を見合わせる。

せっかく力がみなぎり、やる気になっていたのに…。

だが、このままでは洞窟が崩れて、シオンとグレンそしてヴァイトラージニスが生き埋めになりかねない。

それだけは、絶対に避けたかった。

「ちっ…」

グレンが俯いて舌打ちをした。

「シオン…もう、仕方ねぇ…。『星の石』を返さなきゃ、俺達生き埋めになっちまう。残念だが…」

「…うん。俺も、そう思う…」

シオンとグレンは、心底悔しかったが、背に腹は替えられない。

ここで死ぬよりは、石を諦める方が断然いいと考えた。

「おい、ヴァイトラージニス」

『…っ、なんだ』

ヴァイトラージニスももう余裕ではなかった。

この洞窟を何百年も守り続けてきた彼女にとって、この洞窟が崩れるということは、

唯一の居場所をなくしそれと同時に死を意味する。

「これ、返すよ…」

シオンは、ごそっとポケットから石を取り出した。

そしてそれを、ヴァイトラージニスに差し出した。

石を差し出す手は、微かに震えている。

それが地震による揺れなのか、ヴァイトラージニスに対する恐怖からなのか、

それとも石を手放す悔しさからなのか、シオン自身わからなかった。

『ふっ…。やっと…その気になりおったか…』

ヴァイトラージニスが、ふっと笑んだ。

それは、今までの邪悪な勝ち誇ったようなものではなく、安堵からの微笑みだった。

美しい容貌の彼女には、やはりこちらの顔が似合っていた。

そして彼女はシオンから『星の石』を受け取り、すぅ…と消えていった。









しばらくして、地震は収まった。

どうやら、ヴァイトラージニスが石を使って止めたようだ。





『そなた達の罪を許そう…』

2人の頭上から、先程までとは打って変わり、優しいヴァイトラージニスの声が聞こえてきた。

おそらく、これが本来の彼女なのだろう。

『そして、そなた達の私に向かってきたその勇気。私は大いに気に入ったぞ…』

シオンとグレンは、ヴァイトラージニスに褒められ、正直に嬉しかった。

『…そなた達に、これを授けよう…』

ヴァイトラージニスがそう言うと、何もなかった空中から、2つの小さな赤い玉が現れ、

静かにシオンとグレンの手の中に収まった。

「これは…?」

シオンとグレンは、その美しい玉にしばし見惚れていた。

底知れない、透き通る輝き…。

『その玉は、この世に2つとない貴重なものだ。私しか持っていない。

…その玉を私から授かった者達は、一生の親友でいられるであろう。

まさに、そなた達にぴったりだ。大切にするのだぞ…』




そう言うと、彼女の声は聞こえなくなった。

最後に、シオンとグレンは彼女の笑顔を見た気がした。

それは、とても美しく、温かいものだった。

「あ、ありがとう!」

「大切にするぜっ!」

シオンとグレンは、もう姿は見えない、かつての敵、ヴァイトラージニスに言った。

それは、心からの言葉だった。



”一生親友でいられる”…その言葉が、2人にとっては、どんな素敵な贈り物よりも嬉しかった。







「よし。んじゃ、シオン。帰るとすっか!」

グレンが、ようやく一安心!といった様子でシオンを振り返った時だった。



ドサッ



「!?おい、シオン!?」

シオンが、グレンの後ろでばったりと倒れていた。

すぐにグレンはシオンを抱き起こす。

「へへ…。ごめん、グレン…。俺、少し疲れたみたい…」

そして、シオンは静かに寝息を立てて眠ってしまった。

「…はぁ〜!?」

そんなシオンに、呆れた声を上げたグレン。

だが、すぐに溜息混じりに微笑む。

「…ったく。どこまでも心配させやがって…」

(もうちょっと、鍛えて体力つかせねぇとな〜シオンには)

帰ってから、特訓メニューを組んでやろうと企むグレンだった。



「さて、と」

よいしょ、と声をかけ、グレンはシオンを背負った。

大して体格は変わらない2人だったが、力はグレンの方がある。

グレンもまた疲れているはずなのだが、ヴァイトラージニスから貰った玉に後押しされるように、

シオンを担いで洞窟の出口を目指した。









「ほんとに世話が焼けるぜ、シオンのやつは…」



グレンの顔には、笑顔が満ち溢れていた。









09.01.12 一部加筆・修正


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