第四章〜星の石と2人の友情〜

第九話




「…ンっ!」



遠くで声が聞こえた。



「…オンっ!」



意識が戻っていく。

聞き覚えのある声…。



「シオンっ!」



シオンが目を開けると、そこには親友のグレンがいた。

「………」

ぼーっとグレンの顔を見つめる。

まだ、うまく思考回路が働かない。

「気がついたか、シオン」

にっと、いつもの笑顔を向けるグレン。

「…グレン」

シオンはゆっくりと首を回し、辺りを見回した。

どうやら、自分はグレンの家のベッドの上にいるようだ。

しばらく何度か瞬きをして、体を起こした。

(俺、どうしたんだっけ…?)

シオンは、まだぼーっとした頭で考えた。

グレンはその様子を見て、

「…お前、ヴァイトラージニスが消えた後すぐに、洞窟で倒れたんだぜ?

で、そのまま眠りやがった。…ったく。

で、俺がここまで運んで来てやったんだよ。

ほんとは、お前ん家まで運んでやりたかったけど、俺ん家の方が近かったし、

俺もだいぶ疲れてたしな」

グレンは頭をガリガリと掻きながら、何も覚えていないようなシオンに説明してやった。

「…ごめん」

なんだか気まずい。

またしても、グレンに迷惑をかけてしまった。

情けない…。





「…ん」

シオンは、左手の中に何かがあるのに気付いた。

握っていた左手を開く。

「!これ…」

シオンは、左手の中で美しく輝く赤い玉を見た。

シオンの脳裏に、赤い玉を貰った時の記憶がよみがえる。

そして、”一生親友でいられる”という言葉が胸によぎった。

「よかったな、シオン」

グレンが歯を見せて笑った。

「お前の願い、どうやら叶ったみたいだぜ?」

「…うん!」

シオンは大きく頷いた。

2人は、しばらく自分たちの手の中にある石を見つめた。





「グレンの願いも、きっと叶うよ…」

シオンはポツリと、だがグレンにははっきり聞こえるようにそう呟いた。

グレンは口には出さなかったが、ありがとうと言った。





「大切に、しような」

グレンがシオンに、約束だぞ、というように言った。

シオンも、その言葉に大きく頷く。

2人の、一生の約束…―――。







「あ…」

「どうした、シオン?」

シオンはふと、側にあった鏡を見た。

その目線は、ベルマディにやられた傷にあった。

あの『光』によって癒されたと思っていた傷だったが、どうやらこの傷は深すぎたらしく、

傷跡が残ってしまっていた。

小さなシオンには、痛々しすぎる傷跡…。

「それ…痕、残っちまうな…」

シオンの様子に気付いたグレンは、気まずそうに言い、しゅんとした。

「ごめん…。やっぱり、俺が誘わなかったら…」

「いいんだって!」

グレンの言葉を遮るように、シオンは明るく告げる。

「これも、俺とグレンの『友情の証』だよ!そうでしょ?

だって、俺とグレンは、一緒に戦ったんだ!」

「………」

グレンは何も言わずに微笑んだ。

普段は絶対にしないような、眉毛を八の字にし泣き出しそうな顔。

シオンの優しさに対する、感謝の意味が込められていた。

「そうだ!なぁ、こうしたら格好いいかも!」

グレンは側にあった引き出しをごそごそと探り、一枚の絆創膏を取り出した。

そして、シオンの傷跡の上に貼り付けた。

「ほら!これなら傷跡も見えないし、かっこいいぜ!

よし、今日から、これはシオンのトレードマークだ!」

半ば強引だったが、シオンはとても気に入った。

「うん!」

シオンは絆創膏の上を、手の平でそっと触れた。

「…へへ」

そして、照れくさそうにはにかんだ。

「よく似合ってるぜ!」

グレンも、ずいっとVサインをした。









09.01.12 一部加筆・修正


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