プロローグ

第二話




サキエスの森には、10分ほどで着いた。

「よし。シオン、今日はいつもと違った方法で捕ろう」

グレンが、森に着くなり口を開いた。

「?」

シオンがきょとんとしていると、グレンは何かを企んでいるような顔つきになり、シオンの鼻先に

人差し指を突き立て、

「競争だ」

と、一言言った。

話をしている間も、二人は森の奥へと入って行った。

この森のことは、もうほとんど知り尽くしている。

だから、話しをしながらでも勝手に体が動くのだった。

「…競争?」

「そうだ」

シオン達の『いつもの方法』とは、2人で同じ獲物を攻撃し獲物を捕る、という簡単でかつ、長年の

2人の友情があってこその方法だった。

「いつも同じやり方じゃ、飽きるだろ?」

「うん。まぁ…」

グレンの指先を見つめながら、シオンは言った。

(その表情に、グレンは思わず笑いそうになった。)

「そこで、だ。今日は、時間内にどっちが多く獲物を捕れるか勝負だ。

これで、どっちが本当に狩りが上手いかが分かる」

グレンの言葉には、”俺の方が絶対に上手い!”という、自信たっぷりの気持ちが込められていた。

「うん。まぁ、いいよ」

他に方法もない、かと言っていつもと同じ方法ではつまらない。

何も思いつかないシオンは、グレンの意見に同意した。

「よし。時間は…日没までだ。日没になったら、またここに戻ってくる。いいか?」

今から日没までは、たっぷり10時間ある。

いくら狩りが下手な人間でも、10時間もあれば1匹くらいは捕れるだろう。

「うん。分かった。それでいいよ」

シオン達が今いる場所は、ほぼ森の中心だ。

その目印に、大人が3人は寝られそうな程の大きな岩がある。

その岩は、少し白みがかっていて、ごつごつしている。



「よし。じゃぁ…」

グレンはそう言いながら、シオンから1メートル程離れ、背を向けた。

どうやら、スタートするらしい。


「よーい…、スタート!」

言うが早いか、グレンは全速で走って行った。

グレンはかなり燃えていた。

どうやら、何としてでもこの勝負に勝ちたいらしい。



「…ふぅ。さすがグレン。もう姿が見えないや…」

シオンは、顔の上に左手をかざしながら、グレンの走って行った方を見ながら呟いた。

「さて、と。オレもそろそろ行かなくちゃな。

んー…と。どの辺がいいかなぁ…」

シオンは辺りをぐるりと見回した。

(どこがいいかなぁ…。どうせならたくさん捕ってグレンを見返してやりたいんだけど…)







「!」

ぐるりと見回していたシオンの視線が、ある一点でぴたりと止まった。

その視線の先には、1つの小さな洞窟があった。

この森のことをあまり知らない人間だったら、見逃してしまう程小さい。

おまけに、周りの雑草に紛れて、入り口が半分しか見えていない。

(あそこは確か…)

シオンは何かを思い出していた。

そうして記憶の糸を辿り、答えに行き着いた。



「よし。あの辺、行ってみっか!」

シオンはニヤリと唇の端を持ち上げ、ぺろりと舌で舐めた。





洞窟までは100メートルと少しと言ったところだろうか。

シオンは洞窟に向かって、腰の辺りまで伸びているツタや草をかき分けながら、

ざくざくと進んだ。



(結構…進みにくいな…)

洞窟に着くまでに、シオンのマントは何度もツタに絡まった。

その度にシオンは、

「げっ!」

と声を上げた。

危うく、お気に入りのマントがびりびりに破けてしまうところだった。











「ふう…」

額にうっすらと滲んだ汗を、手の甲で拭いながらシオンは息をついた。

「着いた…」

目の前にある小さな洞窟を見下ろしながら、ふっと笑みを漏らした。

「やっぱりここか…」

その洞窟は、まだシオンもグレンも小さかった頃、2人で遊び心混じりに冒険を求めて

やって来た所だった。

まだその頃は何も知らず、恐ろしい目に何度も遭っていた。

しかし、シオンにとって、グレンとの思い出は辛い思い出を忘れさせてくれるような程、

美しい思い出になったのだ。

特に、この洞窟での冒険は…。





「懐かしいなぁ…」

幼い頃のことを思い出し、思わず顔がほころぶ。

「あの頃は色々あったもんなぁ…」









シオンの頬を、爽やかな風が撫で、髪をさぁっと揺らした。

空は透き通るような青で、小鳥がさえずっていた。









08.11.29 一部加筆・修正


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