第二章 花束〜贈り物〜
第一話
コンコンコン
まだ朝の静かさが残る、ぽかぽかとしたひだまりの中、フェーンフィート家のドアがノックされた。
それに、主であるフェーンフィートが、がたっと椅子から腰を上げて笑顔を浮かべる。
「!来た来た!フィーナレンス、アルミオンファラール!来たわよ!」
フェーンフィートは、対照的な表情を浮かべる2人を呼びながら、ドアへと小走りに駆けていく。
「はいは〜い♪」
ガチャ
鼻歌でも歌い出しそうな勢いの彼女がドアを開けると、柔らかい光が差し込んできた。
「いらっしゃい、リースナージョペガサス♪待ってたわ!」
「…こんんちは、フェーンフィートさん」
少し緊張気味なリースの表情は固い。
だが、フェーンフィートの腕に優しく包まれ、照れくさそうに挨拶をした。
エメラルドグリーンの髪の毛は光に反射し、宝石の様に輝いていた。
「さ、入って入って♪」
笑顔で促すと、リースは「お邪魔します」と足を踏み入れた。
部屋の中に通されたリースは、部屋をぐるりと見渡し、ほぅっと溜息を吐いた。
(…ここは…なんだか落ち着く…。きれいなところだ…)
もちろんそれは、物が整頓されているからというわけではない。
部屋の雰囲気が、なにもかもが初めてのリースにとって、とても神聖なものに思えたのだ。
ぼーっと立っているリースに、フェーンフィートが声を掛けた。
「やだ、リースったら。遠慮なんかしないで、椅子に座って。ほら」
椅子を一つ引いてやり、腰掛けさせた。
「ありがとうございます」
「いいえ」
フェーンフィートがにこりと微笑めば、リースも恥ずかしそうにはにかむ。
「………」
「いらっしゃい、リース!」
フィーナとアルミオンが、リースとフェーンフィートの前に姿を現した。
「ほら、フィーナレンス。ちゃんと挨拶して」
むすっとしたまま、リースと目を合わせようとしないフィーナの肩を軽くつついた。
「…よく来たな」
無愛想なフィーナなりの、歓迎(?)の挨拶だった。
一瞬、ヒヤッとしたアルミオンを尻目に、リースは少しも気を悪くせずにこりと2人に挨拶した。
「こんにちは、アルミオンファラール、フィーナレンス」
それを聞いたアルミオンは少し驚き、そしてとても嬉しそうな顔をした。
「へえ!もう僕たちの名前覚えてくれたんだ!嬉しいな!ね、フィーナ」
「頭の中が乾いたスポンジみたいにスカスカだから、覚えが早いのだろう」
フィーナは思わず、さらりと言ってのけた。
「むっ。失礼だな。私だってすぐに覚えられるぞ!」
さすがに今のフィーナの言葉にはカチンと来たらしいリースが、反抗してみせた。
が、そこにすかさずフェーンフィートが割って入った。
「はいはい!喧嘩はしないで♪フィーナレンス、アルミオンファラール、2人とも椅子に座って」
フェーンフィートに止められ、リースは渋々椅子に腰掛ける。
微かに火花が散る2人を、アルミオンは少し心配そうに、フェーンフィートは楽しそうに眺めていた。
「…何しに来た?」
「!?」
椅子に座ったかと思うと、フィーナが突然リースをギロリと睨んだ。
そのあまりに突然な事に、フェーンフィートとアルミオンは勢いよくフィーナに目をやる。
当のフィーナは平然としており、2人が恐る恐るリースの方を向くと…、
「神様に、フェーンフィートさんに会いに行ってみてはどうか、と言われたから来たのだ。
ついでにフィーナ、あなたのことも気になっていたから」
リースは詰まることなくさらさらと言った。
だが、フィーナには気に掛かることがあった。
「…『ついでに』、だと?ふんっ。私は貴様になど会いたくはなかったがな。
最も、貴様が土下座するのなら話は別だ。
…全く…。ついでとは失礼なヤツめ」
フィーナの言葉に悪気はなかった(と本人は思っていた)が、リースの勘に障ったらしく、
リースの顔に怒りが満ちていくのが手に取るようにわかった。
「〜〜〜〜〜〜何だとっ!?私がはるばる来てやったのに…!」
「別に、来てくれと頼んだ覚えはない」
リースの言葉を遮り、キッパリと断ち切るフィーナ。
2人の間に、険悪なムードが流れる…。
09.03.18 一部修正
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