第二章 花束〜贈り物〜

第三話




―夜―



「それじゃ、リースの誕生を祝って!カンパァ〜イ♪」



カチンッ



グラスのぶつかり合う音が、部屋に心地よく響いた。

「さ、みんな、どんどん食べてちょうだい!今日は腕によりを掛けたのよん♪」

フィーナ、アルミオン、リース、そして無理矢理呼ばれたラフィスが、それぞれテーブルにつき、

各々の皿にフェーンフィート手製の料理を盛っていた。

「!おいしい!!」

一口口に入れたリースは、歓喜の声を上げた。

「当たり前だ。フェーンフィートさんの料理は世界一だ」

フィーナが自分の皿に盛った、リヴァイアサンの丸焼きを口に運びながら言った。

「さぁさぁみんな、遠慮しないで!ほら、ラフィス、アルミオン!!私の愛情たっぷりの料理、

お腹いっぱい食べて!!!」

「え!?いや、オレは…」

「僕も、まだお皿の上にたくさんあるから…あっ…」

2人の言うことも聞かず、フェーンフィートはどんどん皿に盛っていく。

ラフィスとアルミオンは顔を見合わせ、無言のやりとりをしてコクンと頷いた。



―仕方ない。…食うか…―

―そうするしかないね…―









「ごちそうさまーっ!」

あらかた料理を食べ尽くし、5人は食事を終えた。

「私は部屋へ戻って休む。おやすみなさい、フェーンフィートさん」

「僕も。おやすみなさい」

「オレは家へ帰る。ごちそうになった。じゃあな」

フィーナ、アルミオンはそれぞれの部屋、ラフィスは家へと戻っていった。



「…フェーンフィートさん、私はどこで寝るんですか?」

それぞれの後ろ姿を見つめ、リースは少し不安そうに聞いた。

「ん?ああ。でも、その前に。…ちょっとここで待ってて、リース♪」

「?」

フェーンフィートはリースにそう告げ、自分の部屋へと向かった。







「お待たせ♪」

しばらくして帰って来たフェーンフィートの手には、小さな包み。

「はい、これ♪」

手に持っていた包みを、笑顔でリースに差し出す。

「え??」

リースは、キョトンとその包みとフェーンフィートの顔を交互に見たあと、ゆっくりと受け取る。

「誕生日プレゼント、よ♪さ、早く開けてみて♪」

リースは言われるままに、その包みをそっと開けて中身を取り出した。



チャリ…



「!わぁ…」

中身は1つのペンダントだった。

細い鎖の先に、金色の平たく円いものに羽がついているデザインだ。

「…きれい…」

リースはそのペンダントを自分の目の高さまで上げ、じっくりと見た。

「…どうしたんです、これ?私が貰ってもいいんですか…?」

おずおずとリースが尋ねると、フェーンフィートはにっこりと笑んだ。

「前にね、浜辺まで散歩に行った時に拾ったものなの。

とても素敵だったから、持ち帰って磨いてみたのよ♪

古そうなもので悪いんだけど、私からの贈り物よ♪」

「そんな…。あ、ありがとうございます!」

深々とお辞儀をして、早速そのペンダントを首からかけた。

「うん!よく似合ってるわ、リース♪」

「へへ…」

フェーンフィートに褒められ頬を少し染め、照れくさそうに笑んだ。


「さ、今日はもう寝ましょう。部屋が開いていないから、私の部屋で。ごめんね」

「いいえ!」

フェーンフィートと一緒に寝られることの方が、リースにとってはよっぽど嬉しかった。





「ねぇ、フェーンフィートさん…」

ベッドに入り天井を眺めていたリースが、ポツリと言った。

「ん?どうしたの?」

すぐにフェーンフィートが、リースの寝ているベッドの横に腰掛けた。

「…フィーナは、私の事が嫌いなんでしょうか…?」

顔をフェーンフィートの方に向けたが、既に電気の消えた部屋は暗く、月も雲に隠れ表情はわからない。

「…そんなことないわよ」

そっと、リースの頭を撫でるフェーンフィート。

その声は、とても柔らかくリースを安心させた。

「でも、私にだけではないですか?ああいう態度をとるの」

「…くすっ…そうね。でも、それは決してリースを嫌っているからではないと思うわ。

あの子も、まだ少しあなたに慣れていないせいだと思うから。

…私やアルミオンファラールは、人懐っこいからね」

フェーンフィートの手が、リースの額にかかった前髪をサラッと掻き上げた。

「そのうち、きっと仲良くなれるわ。だから、もうおやすみ…」

「…はい…」





ゆっくりと目を閉じようとしたものの、リースはなかなか寝付けなかった。

「そうだ!私が子守唄を歌ってあげる♪」

フェーンフィートがリースの様子を見て、子守唄を歌い出した。

彼女の声はとても優しく、透き通っていた。

その声に引き込まれるように、リースはゆっくりとその瞼を下ろしていった。





そして、リースが完全に目を閉じる前に、フェーンフィートの顔をちらりと見た。

窓の外では、雲が晴れ月が優しく輝いていた。

(…!)

フェーンフィートの顔は、今までよりも美しい表情をしていた。

優しく包み込むような、だが少し物悲しい、そんな顔…。



リースはゆっくりと、眠りに堕ちていった…。









09.03.18 一部修正


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